【学生向け】経営陣の報酬は固定給だけ?経営陣の報酬の実例を紹介します

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みなさんこんにちは。神奈川大学経営学部・准教授の尻無濱です。

管理会計の講義では、業績評価と報酬の仕組みをトピックの1つとして教えています。

学生さんからのコメントで「正直、会社の経営陣は固定給だけをもらっていると思っていたので、そのほかにも報酬があると知って驚きました」という趣旨のコメントをもらいました。

会社の経営陣がもらっている報酬の仕組みについて、案外知らない人もいるのかもしれないと思い、簡単に紹介しようと思います。この記事より詳しい内容は、ぜひ私の「管理会計総論」の講義を履修して勉強してください。なお、今回の記事は以下の書籍を参考に書いています。

会社の経営陣の報酬:固定給と業績連動給、金銭報酬と株式報酬

会社の経営陣の報酬は、固定給部分と業績連動給部分に分かれます。前者は経営陣の業績と関係なく、その職責に応じてもらえる報酬ですね。基本的には我々が日常的に使っているお金の形でもらうことになります(金銭報酬)。

経営陣に固定給を与えるだけでは、会社の業績と関係なく安定した報酬がもらえることになります。そうすると、「株主のために努力して、高い利益目標を達成しよう!」という気持ちがなくなってしまうかもしれません。頑張らずに怠けてしまうかもしれませんね。

そこで、固定給に加えて、会社の業績と連動する報酬(業績連動給)が経営陣には与えられます。会社の業績と連動することで、経営陣が努力して会社の業績が上がれば、彼らがもらえる報酬も増える。株主も、会社の利益が増えればそれだけ配当金が増えたり、株価が上がったりする可能性が高まりますから、嬉しいわけです。

ただし、会社が稼いだ短期の利益と連動する業績連動給には問題があることが昔から指摘されています。その問題の一つが、短期の利益目標達成のために、中長期的には会社の利益を減らしてしまうような意思決定を経営者がしてしまう(近視眼的行動)というものです。

例えば、今年度の利益目標がこのままでは達成ができなそうだということが年度の途中で判明したとしましょう。そうすると、今年度の研究開発費を減らす、必要な設備の維持・メンテナンスを延期する、人材育成予算を減らすなどして、利益目標を達成しようとする経営陣がでてきます。これらを行うことで短期の利益目標は達成されるかもしれませんが、中長期的には新製品の開発が遅れる、設備の故障が増える、人材が育たないなどしてむしろ企業業績にはマイナスの影響が出かねないですね。このように、短期の利益目標だけを経営陣に追求させると、弊害があることが知られています。

経営陣の目線を中長期の企業業績にも向けようとしたものが、株式報酬ですね。株式報酬の前提は、中長期的には会社の利益成長と株価の上昇が連動するというものです。経営陣が中長期的に利益を増やしていくような意思決定を行うと、中長期的に株価が上昇して、経営陣の報酬も増える。なので、短期の利益目標だけでなく、中長期的な利益成長を狙った研究開発投資、設備の維持・メンテナンス、人材育成などの行動を経営陣に促す効果があると言えます。

株式報酬でよく使われるものがストック・オプションですね。将来のある時点、もしくはある期間において、あらかじめ決められた金額で自社株式を購入する権利がストック・オプションです。例えば、3年後の決算日以降に1株1,000円で1,000株まで株式を自社から取得できるという権利を、経営陣が報酬として受け取ったとしましょう。すると、3年後に株価2,000円になっていたら、100万円で株を自社から取得し200万円で売れるので、100万円儲かるわけです!もちろん、株数が多かったり株価がもっと上昇すれば、数百万、数千万、場合によっては数億円も儲かることも。夢がありますね。

株式報酬には、ストック・オプションのほかにも譲渡制限付株式報酬(RS)株式給付信託(BBT)といったものもあります。前者は経営陣に対して、一定期間(例:3年)の譲渡制限がついた株式を交付する仕組み。後者は、信託銀行等に会社が金銭を受託し、自社株式を取得・保有してもらい、経営陣の業績に応じて信託銀行等が自社株を経営陣に給付するというものです。ストック・オプションは株価が下がると儲からないので経営陣のモチベーションも下がってしまいますが、RSUやBBTはそういうこともないので、株価下落時でも頑張るモチベーションになるといわれています。

事例

それでは、経営陣の報酬について事例を紹介しましょう。まずはリクルート・ホールディングス。学生さんだとリクナビにお世話になっているという人も多いのではないでしょうか。そのほかにも、スタディサプリ、ホットペッパーグルメ、じゃらんと身近なサービスを多く運営している会社です。

リクルート・ホールディングスは、経営陣がもらっている固定給、業績連動の金銭報酬、株式報酬の割合に大きな差があります。

項目固定給業績連動の
金銭報酬
株式報酬合計
(ストック・
オプション、BBT)
取締役平均16%12%72%

リクルート・ホールディングスの経営陣の報酬構成
出所:リクルート・ホールディングス2022年3月期有価証券報告書

表を見てもらえばわかるように、リクルート・ホールディングスの経営陣がもらう報酬の大半は株式報酬ですね。取締役の平均で72%。株式報酬を重視しているのがよくわかります。なお、最も報酬を多くもらっている取締役は6億3千万円もらっていて、そのうちの株式報酬は5億8千3百万円。報酬のうち92%が株式報酬になります。

次に、Zホールディングスを紹介しましょう。ZホールディングスはZOZO、出前館、ヤフージャパン、paypay、LINE、アスクルなどの親会社ですね。ソフトバンクグループの連結子会社でもあります。Zホールディングスでも、経営陣がもらう報酬のうち株式報酬は60%~80%と大半を占め、固定給、業績連動の金銭報酬はそれより少ない10%~20%となっています(Zホールディングス2022年3月期有価証券報告書を参照)。

Zホールディングスは、経営陣がもらっている株式報酬の多さで知られています。もっとも多額の報酬をもらっている取締役の場合、株式報酬で41億円ももらっています!いや~、夢がありますね(2回目)。

まとめ+経営者報酬の研究の進展

この記事では、経営陣の報酬について、その種類と実例を紹介しました。

会社の経営陣は、固定給だけでなく業績連動の金銭報酬、株式報酬をもらっていることが多いです。また、リクルート・ホールディングスやZホールディングスなどのように、経営陣の報酬の大半が株式報酬という会社も多くあります。経営陣に中長期での利益成長に向けて頑張ってもらうために、このような報酬制度が用意されているんですね。

経営者報酬については、桃山学院大学の濱村純平先生を中心に、日本管理会計学会のスタディ・グループで研究が進められています。今年の夏に開催される日本管理会計学会・全国大会 at 東北工業大学では、「経営者報酬を利用した経営者の業績評価に関する理論的・実証的研究」のこれまでの成果が報告されるそうです。興味のある方は聞きに行ってみるといいでしょう。

なお、このスタディ・グループの成果は将来的に書籍にまとめられるという話を小耳にはさみました。今から書籍が出るのが楽しみです。

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