【学生向け】なぜ1年次必修の会計学講義で、日商簿記資格取得に特化した講義をしないのか?

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みなさんこんにちは。神奈川大学経営学部・准教授の尻無濱です。

1年次必修の会計学講義(本学部の場合は「会計の基礎」という講義名)で教えていると、時折次のような質問・要望を受けます。

「日商簿記3級の資格取得を目指しています。もっと日商簿記で出てくるような問題を授業中に解きたいです」
「なぜ日商簿記検定の資格取得に向けた講義をしないのか?」

私の気持ちとしては、会計に興味がある人はぜひ日商簿記3級、簿記2級と資格を取ってもらいたいのですが…1年次必修の講義では日商簿記の資格取得を目指した講義はしていません。

シラバス上では、簿記以外にも国際会計、ディスクロージャー制度、監査論などを学ぶかたちになっています。そこに必修の会計学を担当する各教員(4名)がそれぞれアレンジを加えて、1年生向けの講義をやっています。簿記に限定した講義にはなっていません。

それはなぜか?

理由は大きく3つあります。第1に、必修講義で知ってほしい会計学の知識は、日商簿記検定の範囲よりずっと広いからです。第2に、受講者の多くは経理職にならないからです。第3に、日商簿記資格取得に役立つ講義は将来選択できるからです。

まず1つ目ですが、必修講義で知ってほしい会計学の知識は、日商簿記検定の範囲を大きくこえています。そもそも会計学には、簿記以外にも財務会計、管理会計、税務会計、財務諸表分析、監査論、公会計/非営利組織会計、国際会計… などがあります。1年生向けの必修講義では、今後4年間で学ぶ会計学の基礎を、広く浅く知ってもらうことが目的のひとつです。日商簿記検定だけに特化してしまうと、簿記のことしか学べないので、その目的を果たせない。だから、簿記検定だけに特化した授業はしていないのです。

2つ目の理由は、受講者の多くは経理職にならないからです。日商簿記検定は、経理職を目指す人向けの資格試験です。もちろん、経理職以外を目指す人にも大いに役立つ資格です(特に簿記3級はおすすめ)。とはいえ、日商簿記に向けた勉強はどうしても仕訳や帳簿記入の細かい話にならざるを得ず、経理職を目指していない大半の学生さんにとっては退屈、難解、モチベーションがわかないということになりかねません。

日商簿記にしぼらないことで、いろんなモチベーションをもった学生さん相手に、幅広いトピックを教えることが可能になります。「株式投資や企業分析に興味がある!」「将来の就職先を探すときに企業のことを調べたい!」という人向けには企業の情報開示の仕組みや簡単な財務諸表分析を教えることができます。「将来国際的な企業で働きたいので、会計についても国際的なルールを知りたい!」という人には国際財務報告基準(IFRS)の概要を教えることができます。日商簿記に絞った講義ではこういうことは難しいのです。

第3に、日商簿記資格取得と関連する講義は、将来選択できるという理由があります。例えば本学部の場合は、1年次後期に履修できる選択必修の講義として、「簿記原理」があります。「簿記原理」はおおむね日商簿記3級程度の簿記を学ぶことができます。ほかにも、2年生以降に選択で「中級簿記」「上級簿記」で商業簿記を学べますし、「原価計算入門」「原価計算の基礎」で日商簿記2級レベルの工業簿記・原価計算を学ぶこともできます。資格取得をしたいという人向けには、1年前期の必修以外にもいろんな選択肢があるのです。

以上のような理由から、1年生向けの必修の会計学の講義では、日商簿記の資格取得に絞った講義はしていないのです。もちろん、会計学の教員としては多くの人に日商簿記の資格取得にチャレンジしてほしい。ですが、会計学の中で教えるべき範囲の広さ、学生側のモチベーション、簿記を学べるほかの講義の存在といったものを考えると、今のような形にならざるを得ないということですね。

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