【決算書を読む】京都きもの友禅の苦境と復活への投資

woman wearing a kimono holding umbrella 企業分析
Photo by Evgeny Tchebotarev on Pexels.com

みなさんこんにちは。神奈川大学経営学部・准教授の尻無濱です。

2023年度の尻無濱ゼミでは、学部4年のゼミ生有志を対象に、2週間に1度のペースで勉強会を行っています。

乙政正太先生の『財務諸表分析 第3版』(同文館出版)をテキストにして、1章ずつ読みながらゼミ生たちの興味・関心のある企業の財務諸表分析をしています。

今回はテキスト第4章「損益計算書データによる収益性分析」をよみ、京都きもの友禅の運営会社であるYU-WA Creation Holdings(証券コード:7615)を分析しました。その苦境と復活への投資について、連結損益計算書やセグメント情報を参照しつつ、簡単にまとめてみたいと思います。

京都きもの友禅の苦境

YU-WA Creation Holdings(以下YU-WAと略す)の中核企業である京都きもの友禅とは、そもそも何をやっている企業なんでしょうか。

公式webサイトによると、1971年設立で、主要事業は「振袖」を中心とした高級呉服・宝飾等の販売となっています。店舗数は46(2023年3月31日時点)。従業員数は京都きもの友禅単体で537名ですね。

時価総額は24億円程度、株価は200円を切っており、中長期でさえない展開になっています。

YU-WA 株価の推移(2015年1月~2023年5月)
出所:ヤフーファイナンス

決算短信を見ると、2023年3月期にはグループ全体で売上高が83億円、営業損失がマイナス2億9千万円、親会社株主損失がマイナス4億7千万円と、苦しい状況であることがわかります。

振袖を中心とした高級呉服販売が中核事業ということですから、コロナ禍における行動制限で成人式や卒業式、結婚式、夏祭り等のイベントが激減してしまったために苦境に陥ったように想像できます。

もちろん、コロナ禍のダメージは大きかった。その一方でここ10年程度の状況をみると、コロナ禍以前から苦しい状況が続いていることも分かります。以下の図は売上高、営業利益率の推移をあらわしたものですが、年々売上高が減少し、利益率も大きく低下していることがわかります。

2013年3月期には売上高167億円、経常利益率16%と高収益だったのに、2023年3月期には売上高は83億円と半減。経常利益率もマイナス3.2%と赤字に苦しんでいます。

YU-WA 業績の推移(2013年3月期~2023年3月期)
出所:有価証券報告書・決算短信にもとづき筆者が作成

なぜこんなに業績が悪化してしまったのでしょうか。

矢野経済研究所によると、着物市場は長期で市場が縮小しているそうです。少し前のデータになりますが、2013年に3,000億円規模だったのが、2022年には2,200億円程度まで縮小。市場が縮小する中で競合他社の競争も激しくなっていると予想されます。

ただ、市場縮小による競争激化意外にも、消費者動向の変化、本社管理費の大きさも収益性を大きく下げた要因のようです。決算短信のセグメント情報や経営成績等の概況、決算説明資料を読み解いてみましょう。

セグメント情報から見る2事業の現況

YU-WA の主要事業は和装店舗運営事業(以下、和装事業)ですが、それに加えてその他事業も営んでいます。

その他、というと規模が小さいものが一緒くたにまとめられているというイメージがわきます。ですが、セグメント情報を読むとYU-WAはここに積極的な投資をしていることがわかります。それぞれの事業の収益性や投資について、セグメント情報を中心に見ていきましょう。

なお、セグメント情報とは企業の営む事業ごとの売上高規模、収益性や投資の状況を明らかにするもので、ここを読み解くことで主力事業や不採算事業、投資に力を入れている事業はどれかがわかります。

まずは全体像ですが、以下の図から売上高、利益ともに和装事業が中核であることが一目瞭然でわかります。和装事業で稼いだお金で、その他事業の損失を補てん、本社管理費を支払うといった構造ですね。ただ、本社管理費の負担が大きい。ここ2年で売上が減る中でほとんど減っていない(むしろ増加)ことを考えると、本社管理費は売上の減少に応じて機動的に金額を減らせない固定費のようです。この負担が重く、利益率低下、赤字転落となっています。

YU-WA セグメント売上高(2023年3月期)
出所:決算短信にもとづき筆者が作成

YU-WA セグメント利益(2023年3月期)
出所:決算短信にもとづき筆者が作成

ここからは事業別に業績を見ていきましょう。

まずは和装事業。和装事業で稼いでいるといっても、売上高・利益ともに減少、セグメント利益率も7.3%から4.1%と低下しており、低迷していることがわかります。

YU-WA 和装事業・業績推移(2022年3月期~2023年3月期)
出所:決算短信にもとづき筆者が作成

和装事業については、決算短信の「経営成績等の概況」や決算説明資料を読むと、顧客行動が変化していることが分かります。近年は特に振袖販売・レンタルについて、顧客が買取りよりレンタルを志向するようになり、販売単価が落ちているようです。また、母親が成人式で使用した振袖をアレンジして使う「ママ振袖」が増えたことも、販売単価を減らす原因になっているんだとか。インフレによる買い控えも売上減少につながっているようです。これらが和装事業低迷の原因のようです。

和装事業に比べるとはるかに小さいその他事業。その他事業には、写真スタジオ事業、EC(E-コマース)事業、ネイルサロン事業等が含まれます。コロナ禍や顧客行動の変容を契機に、和装事業と関連する様々な事業へ展開し、収益源を多様化しようとしているようです。

和装店舗から写真スタジオへの顧客紹介(その逆も)、和装事業の商品をEC事業でも販売・レンタルするなど、和装事業とのシナジーもあるため、その他事業の伸びが重視されています。セグメント売上高は32%と大きく伸びており、まだ赤字ではありますが成長事業だといえるでしょう。

投資(有形固定資産及び無形固定資産の増加額)についても積極的に行われており、この2年でその他事業への投資は1.8億円。はるかに規模が大きい和装事業への投資は1億円なので、その他事業への力の入れようが分かります。

ただ、投資がうまく行っているかというと微妙なところです。和装事業、その他事業ともに、投資回収が難しいと判断された店舗等の価値が大きく切り下げられています(セグメント情報の減損損失を参照)。

和装事業を取り巻く環境が厳しい中で、その他事業をテコにして業績の回復はあるのか。収益源の多様化と事業間のシナジーが功を奏するのか。YU-WAが復活できるのか、注目していきたいですね。

決算書の読み方

有価証券報告書や決算短信(以下決算書とする)は大部なので、ポイントをおさえて効率的に読めるようになりたいものです。

今回のようにある会社の収益性の変動要因を決算書から読み解く場合には、「主要な経営指標等の推移」や「事業の内容」から全体像をつかんだ後、セグメント情報に目をとおし事業ごとの収益性の違い、投資の状況を定量的に把握します。Excelに必要な数字を入力して可視化するのもおススメです。このとき、収益性の変動要因をいろいろ想像しながら読むようにしましょう。

そのうえで、経営者の視点からの経営成績等の分析(いわゆるMD&A。決算短信なら経営成績等の概況)を読んで、決算書の数値の解釈を確認すると理解が深まります。

決算書信の読み方にはコツがあります。有価証券報告書の読み方を学べる本として、『3つの視点で会社がわかる「有報」の読み方(第3版)』があります。この手の書籍を読んで決算書と格闘するのも、読み方を身につける一つの方法です。

ただ、参考書片手に決算書と一人で格闘するのはけっこう大変です。だれか指導者を見つけて、セミナーなどで読み方をレクチャーしてもらうと効率よく読み方を身につけることができると思います。

今回の勉強会はゼミ生向けにやっているものですが、外部からでも依頼があれば、校務に支障の出ない範囲で有償で引き受けます。相談にのるのでご連絡ください

コメント

タイトルとURLをコピーしました