【学生向け】振替価格設定でどの基準が使われていることが多いのか?

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みなさんこんにちは。神奈川大学経営学部・准教授の尻無濱です。

利益センターの業績測定を論じた管理会計の講義で、学生さんからこんな質問をもらいました。

「実際の企業では振替価格設定の際にどの基準を使っているのが多いんでしょうか?」

私もよく知らなかったので、改めて調べてみたところ、「2007年時点では国際振替価格については原価基準の採用が多く、交渉して振替価格を設定する企業は半数にやや満たない。振替価格一般についてはよくわからない」という結論になりました。

企業内の部門間で製品やサービスのやり取りが行われる際に、その価格をいくらにするかという問題が生じます。これが振替価格設定の問題です。振替価格の基準として、教科書でよく出てくるものは次の3つです。①市場価格をもちいる市価基準、②製品やサービスの原価をベースに場合によっては利幅を加えて価格設定する原価基準、③部門間の交渉で価格が決まる交渉価格基準(協定価格基準とも)、です。

このうち、どれが最も使われているのか?

管理会計実践に関する調査としては、慶應義塾大学の吉田先生たちのチームが定期的に行っている調査(以下のように書籍が3冊出ています)と、日大の川野先生たちのチームがこれまた定期的に行っている調査が有名です。振替価格の設定基準採用状況について、これらの調査で何か明らかになっていないかと調べてみたのですが… どちらの調査も振替価格設定については調査していないようです。

その一方で、国際振替価格の設定に限定したものついては、いくつかの実態調査が見つかりました。このうち、比較的最近(といっても10年以上前ですが…)行われたものに、2007年に発表された椎葉淳先生の「多国籍企業における国際移転価格の役割」、2012年に発表された梅田浩二先生の「日系多国籍企業の国際振替価格管理に関する実態調査」などがあります。このうち、梅田先生の研究では交渉価格基準を扱っていないため、ここでは椎葉先生の研究に基づいて国際振替価格の設定基準の実態を紹介したいと思います。

椎葉先生の調査の特徴は、国際振替価格の設定基準と設定過程を区別している点です。市価に基づくのか原価に基づくのかといった何を基準に価格設定をするのかという議論(設定基準)と、誰がどのように振替価格を設定しているのか(設定過程)を区別することで、実態を詳細に明らかにしようとしています。この観点から、交渉価格基準は価格設定の過程に関する区分として扱われています。交渉に基づかない場合、本社の指令によって振替価格が設定されることになります(指令振替価格)。

中間製品と最終製品を区別して、国際振替価格の設定過程と設定基準の使用数をまとめたのが次の図です。原価基準のほうが市価基準よりも採用が多く、交渉で振替価格を設定している企業は半数にやや満たないことが分かります。

設定過程/設定基準原価基準市価基準合計
指令18321
交渉10717
合計281038

振替価格の設定方法(中間製品)
出所:椎葉(2007)p.44

設定過程/設定基準原価基準市価基準合計
指令13922
交渉81119
合計212041

振替価格の設定方法(最終製品)
出所:椎葉(2007)p.44

より詳細な調査結果は、『日本の多国籍企業の管理会計実務』に収録されている、「第2章 多国籍企業における国際移転価格の役割」を確認してみてください。

参考文献
・梅田浩二(2012)「日系多国籍企業の国際振替価格管理に関する実態調査」『管理会計学』20(2): 63-77
・椎葉淳(2007)「第2章 多国籍企業における国際移転価格の役割ー日経多国籍企業の実務ー」上埜進編著(2007)『日本の多国籍企業の管理会計実務ー郵便質問票調査からの知見ー』pp.39-51

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