簿記と財務諸表分析は全然違うよという話

high rise buildings 学生とのQ&A
Photo by SevenStorm JUHASZIMRUS on Pexels.com

みなさん、こんにちは。神奈川大学経営学部・准教授の尻無濱です。

1年生相手に会計の講義でカンタンな財務諸表分析(例えば営業利益率、負債比率)の解説をすると、「これって簿記の資格をとるのに役立ちますか?」などといった、簿記との関連を質問されることがあります。

簿記と財務諸表分析は全然違うのですが、初学者にはその区別がつきにくいと思うので、手短に解説しようと思います。

結論を先に言うとこんな感じです。簿記は財務諸表の作成技術で、財務諸表分析は財務諸表を読む技術。初歩的な財務諸表分析なら簿記を知らなくてもできる。ただ、簿記を知っているとより踏み込んだ財務諸表分析ができる。

簿記は財務諸表の作成技術

ざっくり言うと、簿記は財務諸表の作成技術です。

企業が日々行う経済的な活動を記録し、1年間の終わりにそれを損益計算書や貸借対照表などの財務諸表(決算書)の形にまとめ上げるのが簿記です。

簿記を勉強すると、企業が行う商品の仕入や代金の支払い、商品の販売や代金の回収、店舗の新設のような設備投資などの経済的活動をどう記録すればよいかが分かります。また、それらの活動の記録を整理し、どのように財務諸表が作成されるのかが理解できます。カンタンなものであれば自分で財務諸表を作ることができるようにもなります。

簿記は財務諸表の作成技術なので、財務諸表を作成したり、財務諸表がきちんとつくられているかをチェックしたり、財務諸表の作成についてアドバイスしたりする仕事につく場合に修得することが必要になります。具体的には、企業の経理職、会計事務所・税理士事務所勤務などですね。金融機関や官公庁(特に国税専門官)、コンサルタントなどを目指す際にも、簿記を修得しておくと就活等で有利になることがあります。

簿記に関する資格では、日商簿記検定が有名ですね。

財務諸表分析は企業の財務諸表を読む技術

これに対して財務諸表分析は、企業の財務諸表を読む技術と言えます。

意外に思う人もいるかもしれないですが、簿記を修得しても財務諸表は読めるようにはなりません。簿記はあくまでも財務諸表の作成技術であり、それをどう読むかはまた別の話になるのです。

財務諸表を読みたければ、その読み方である財務諸表分析を学ぶ必要があります。財務諸表分析を深く学べば、ある企業がどのぐらい儲かっているのか、どのように儲けているのか、安全重視の経営をしているのかそれともリスクをとった経営をしているのか、適正な株価はいくらか、などを読み取ることができるようになります。

財務諸表分析は、それを仕事の一部にしている人たち(企業の経理部・財務部・経営企画部、コンサルタント、証券アナリスト等)以外にも、株式投資に興味がある人や就職先を選ぶ際に企業のことを一段深く知りたい人にとっても役に立ちます。初歩的な財務諸表分析を学ぶことで得られる効用は大きいと思います。財務諸表を読めるようになりたいというニーズが大きいこともあって、入門書も沢山出ています。

財務諸表分析に関する資格としては、ビジネス会計検定が受験のハードルが低く、オススメです。

簿記を勉強しなくても財務諸表は分析できるのか?

簿記と財務諸表分析は全然違うという話をすると、「簿記を勉強しなくても財務諸表分析はできるのか?」という質問を受けることがあります。

私の意見では、簿記を勉強しなくても初歩的な財務諸表分析はできると思います。財務諸表分析をする際に、簿記の知識は必須ではない1

実際、社会人向けの財務諸表分析の入門書では、簿記に関する知識がほとんどない人をターゲットに財務諸表を図表化して理解してもらおうというコンセプトの書籍が多くあります。入門段階では、これで十分だと思います。以下の書籍が、そのようなコンセプトを持つ書籍としておススメです。

ただ、簿記を知っていると経済活動がどのように企業の財務諸表に反映されるかが理解できます。そのため、簿記を知ったうえで財務諸表分析も学べば、より深い分析ができるようになると断言できます。

簿記3級くらいであればそんなに時間をかけずに資格が取れるので、タイパもいいです。2級までとると、財務諸表の大部分について、その背後の作成原理が理解できるようになります。簿記の知識も使って財務諸表分析をやってみたい人は、資格取得に挑戦するとよいでしょう。

  1. これは私のオリジナルの考えというわけではなく、紹介している3冊の書籍などを読んで学んだアイデアです。同じように考えている会計学の教員は、それなりにいるのではないかと思います。 ↩︎

コメント

タイトルとURLをコピーしました