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【大学院生向け】読者を意識した論文の投稿先:紀要、国内学会誌、英文査読誌

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stack of thick books on table 研究
Photo by Jess Bailey Designs on Pexels.com
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皆さん、こんにちは。神奈川大学経営学部・准教授の尻無濱です。

大学院に進学し、将来は大学教員を目指したいという学生さんからときどき連絡をもらいます。大学院に進んだら、自分の研究成果を論文にして発表することになります。研究成果を論文という形で社会に発信する際に、媒体によって読者が違ってくることは意識しておくべきところです。また、どこに論文を載せるかによって得られるメリットも変わってきます。

そこでこの記事では、読者を意識して投稿先を選択する際の私なりの方針を紹介します。論文の投稿先としては、紀要、国内学会誌、英文査読誌の3つを想定しています。私のところで指導を受ける大学院生向けに書いたものです。領域としては会計学(特に管理会計)を想定しています。

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紀要論文

便宜的に紀要と書いていますが、要するに日本語の学術誌で査読がないものを指します1。大学院生であれば、学内に博士後期課程の在籍者が投稿できる紀要があるでしょう。神奈川大学の大学院経営学研究科だと、博士後期課程に在籍していれば『国際経営論集』という紀要に投稿できます。

紀要は査読が入らない分、自分が好きなように書けます。自由度が高く、学会誌では受け入れられないような挑戦的な内容であっても掲載してもらえるのが特徴です。学会誌の査読を突破できるほどの新規性がある内容ではないが論文として形にしておきたい、初歩的な分析しかしていない論文だが現段階での成果として発表しておきたい、研究初期段階の文献レビューを成果としてどこかで発表しておきたいといった場合などにも有用です。

紀要の読者は誰でしょうか。紀要に注目する研究者は多くなく、学会誌のように毎号が同じ学会の研究者のところに届くわけではありません。なので、発表した内容をすぐに同業者に気づいてもらえないことも多いです。一方で、機関リポジトリ(大学の電子アーカイブ)などで論文のPDFファイルがオンラインで読めるようになっていれば、webからのアクセスが期待できます。発表してしばらくたってからキーワード検索で見つけて読んでくれる人も少なくありません。したがって、同じテーマで研究している国内の研究者向けに、自分が取り組んだ挑戦的な内容の研究や研究初期段階の成果を(時間がかかってもいいので)伝えたいときに役に立つと思います。

私の場合、2011年に発表した「Anthonyの計画・統制理論がマネジメント・コントロール文献に与えた影響の研究」という地味なテーマの紀要論文が、発表後ずいぶん経った2019年ごろから引用されるようになりました。こういう例もあるので、紀要でもいいので発表しておくことは意義があります。

紀要論文を出すことには就活上のメリットもあります。くだらない話ではあるのですが、大学院生の場合、大学等の研究機関への就職を考えるならある程度業績数(発表した論文の数)が必要になります。JREC-IN(大学の教員公募などをチェックできるサイト)の公募情報を見てみると、会計学の場合は主要な研究業績として3篇以上の論文の提出を求めているケースが散見されます。国内学会誌や英文査読誌だと査読があるため、投稿した論文が必ずしも掲載されるとは限りません(後述)。また、査読期間が長期にわたり(例えば1年以上)大学院修了までに論文数がそろわないということも考えられます。紀要であれば、ひとまず業績数をそろえるのに使えるのが利点です。

紀要論文にはそのほかのメリットもあります。科研費や財団助成といった形で研究資金を得た場合に、研究成果をどこかに発表する必要があります。もちろん定評のある査読付き学術誌に掲載されれば一番良いのですが、査読があるため財団等への報告期限までに受理されるとは限りません。そのような場合、研究で得たデータの一部を紀要論文に発表するというのは、成果を示すための有力な選択肢になります。このとき、サラミ・スライシング(一本の論文にまとめられる内容を複数の論文に分割して発表する研究不正)にならないように気を付けるべきだということは言うまでもありません。

国内学会誌

国内学会誌と便宜的に呼びますが、要するに日本語の査読付き学術誌を意味します。私が専門とする管理会計の場合、会計プログレス、原価計算研究、管理会計学、メルコ管理会計研究などが有力な投稿先になります。内容が公会計に近いものであれば、会計検査研究もよいでしょう。

国内学会誌は誰が読むのでしょうか。国内学会誌の場合、学会員に対して学術誌が毎号届きます。必然的に、掲載された論文は同じ研究領域の研究者の目に触れる機会が多くなります。紀要論文とはここが違う点です。したがって、同じ学会に所属する国内の研究者に自分の研究成果を幅広く知ってもらいたい場合に、国内学会誌への投稿は有力な選択肢になります。私は大学院の講義などで院生に特定のテーマの論文を紹介する際には、学会誌の論文を紹介したり学会誌(冊子)を貸したりすることが多いです。やはり学会誌は研究成果の伝播という観点から、一定の影響力があると思います。

国内学会誌には様々なメリットがあります。これもくだらない話ではあるのですが、大学教員としての就職を考えるなら、国内学会誌に掲載経験がないと正直言って難しいです。国内学会誌に論文が掲載されるということは、査読を突破してその分野の標準的な水準の論文が書ける能力を示したことになります。例えば先行研究を整理するチカラ、学術的な意義のある研究課題を設定するチカラ、取得したデータ(質的なものでも量的なものでも)を適切に分析し解釈するチカラなどが、学会誌に載る水準くらいはあることを示すことになるわけです。大学によっては自分と同じ分野の研究者が存在しないということもあります。面接を担当する人事委員に会計学者がいないということもあり得ます。そんな時に、国内学会誌に掲載された論文があれば、分野外の人事委員にも自分の実力を示しやすいと思います。

国内学会誌への掲載は、自分の仕事の幅を広げるチャンスにもなります。学会誌に掲載されたあとに国内学会の全国大会や研究会に行くと、「あの論文読みました!ところで実は今こういう研究に取り組んでて…いっしょにやりませんか?」とお誘いを受けることがあります。また、学会誌への掲載がきっかけとなり、寄稿・講演の依頼を受けることもあるでしょう。

国内学会誌に投稿した論文は、査読を突破しない限りは掲載されません。査読コメントが厳しい場合には、時間をかけて改訂したにもかかわらず非受理(リジェクト)となることもあります。業績が必要な大学院生にとっては厳しく感じるかもしれませんが、リジェクトをくらっても腐らずにほかの学会誌や紀要に投稿してほしいです。論文を発表しないと、何も研究していないのと同じで研究に費やした資金と時間が(主観的には別にして社会的に)無駄になってしまい、もったいないです。

英文査読誌

英文査読誌とか海外学術誌とかいろいろ呼び方はありますが、ここでは英文査読誌と呼んでおきます。会計学だと定評のある誰でも知っている学術誌からほとんどだれも知らないようなものまで無数にあります。わざわざ海外に投稿しようとする場合は定評のある学術誌に投稿するのが普通だと思うので、それを前提にしましょう。

誰が英文査読誌を読むでしょうか。特定のテーマについて興味のある世界中の研究者が読みます。英語で書かれているので、日本語の学術論文よりも読んでくれる研究者の数は多いです。先行研究の中でも重要文献の著者が自分の論文を読んでくれて、あわよくば引用してくれる可能性もあります。海外で論文が引用されれば、海外の学術的な潮流に影響を与えることにもなります(かつての日本の管理会計研究者は大きな影響力を持っていました)。自分の研究成果を世界に届けたい、世界の研究潮流に影響を与えたいというのであれば、海外の学術誌に挑戦するとよいでしょう。

英文査読誌の掲載は国内学術誌への掲載と同じような就活上のメリット、仕事の幅を広げる上でのメリットがあります。とはいえ英文査読誌のほうが、国内学術誌よりもこれらのメリットは大きいでしょう。私自身、国内学術誌だけの掲載経験しかなかった時と比較すると、英文査読誌に論文を載せてからのほうが公募での面接に呼んでもらえる確率が高くなりました。海外査読誌からの査読依頼や別分野の研究者から登壇のお誘いなどが増えて、仕事の幅がさらに広がりました。

一方で、定評のある英文査読誌に論文を載せるのは非常に難しいです。私はたまたま運よく非営利組織研究で定評のある査読誌(NVSQ)に掲載された経験がありますが、査読を突破するのは大変でした。4人査読者が付き、査読対応も合計で4回、1年程度かかりました。これはまだ楽なほうで、私が共著者と会計学の英文査読誌に投稿している論文では査読に2年かかってまだ論文改訂中のものや、すでに2度英文査読誌にリジェクトされて3誌目に挑戦中のものなどがあります。知り合いには4年もかけて査読対応したのにリジェクトされた人も…。在籍年数が限られた大学院生にとっては、(少なくとも会計学分野では)定評のある英文査読誌のへ掲載はハードルが高く、投稿する場合は指導教員とよく相談してからのほうがよいでしょう。

一方で、査読がそんなに厳しくない英文査読誌もあって、そういう雑誌に投稿するのも悪くないと思います。私自身、ほかの英文査読誌に載らなかった論文を拾ってもらった経験があります(Asian Review of Accounting 掲載論文)。科研費や財団からの助成をもらっている以上、成果を発表しないのが一番ダメなので、多少ランクを下げてもどこかで公表するのがよいと思います。

英文査読誌に掲載するメリット・デメリットはほかにもあるので、また別の記事で私の経験も踏まえて詳しく解説します。

まとめ

紀要、国内学術誌、英文査読誌はそれぞれ読者が違います。想定する読者が誰か、それぞれに掲載するメリットは何か、掲載までにどれだけ時間がかかるかなどを考慮して、どこに投稿するかを考えましょう。

大学院生であれば、複数プロジェクトを走らせておいて、そのうちのひとつのプロジェクトの成果は英文査読誌に、別のプロジェクトの論文は国内査読誌に、博論のために整理した先行研究レビューは紀要に…みたいな使い分けをするのもよいと思います。論文が掲載されないというリスクを減らせるのでおススメです。一人で複数のプロジェクトを進めるのは大変なので、指導教員や先輩、同期、学会で意気投合した同業者などとうまく協力するようにしましょう。

  1. 最近は査読付き紀要というものも増えたが、査読付き紀要は査読論文として業績カウントしてもらえる半面、国内学術誌のように広く読まれるものではない。 ↩︎

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