2019年の2月末~3月初旬にかけて、筑波大学の大学院、ビジネス科学研究科で博士後期課程の学生向けに管理会計特論を開講しました(シラバスはこちら)。講義中に紹介した文献の一部を、ブログでも紹介しておこうと思います。なお、この講義のテキストは
Harris ed. 2017. The Routledge Companion to Performance Management and Control, Routledge.
でした。最近出版された、業績管理、マネジメント・コントロール(Management Control: MC)に関する論文集ですね。全28章の中から、MCの理論的枠組みと脱予算経営の事例を紹介した第2章、京セラのアメーバ経営を扱った第3章、規制と産業ベンチマークが業績管理システムに与える影響を事例を通じて検討した第6章、行動科学的諸問題に焦点を当てた業績管理研究のレビュー論文である第12章、そして非営利組織MC研究の最近の展開と将来の研究課題を論じた第22章を講義では取り上げました。
- Ferreira and Otley (2009) MAR … 業績管理システムを研究するための包括的な枠組みを提案した論文。今回のテキストでは、複数の章で事例調査に用いた調査枠組みとして登場していました。
- Campbell (2012) JAR … 従業員の選抜をコントロール手段の一つとしてとらえて実証的に研究した論文。
- Malmi and Brown (2008) MAR … パッケージとしてのMCシステムを打ち出した論文です。業績測定システムだけでなく、それ以外のMC手段も扱った研究、特にMC手段間の相互関係を検討する研究では必ずといっていいほど引用される論文です。
- Hiebl (2014) JMC … 上層部理論を用いた管理会計研究のレビューです。
- Davila and Foster (2005, 2007) TAR … スタートアップ企業を対象に、様々な管理会計手法・MC手法の採用が変化していく様子を定量的に研究した論文です。
- アメーバ経営に関する研究書として、以下のものを紹介しておきます。アメーバ経営は近年活発に研究されており、他にも優れた研究書が出版されています。
- アメーバ経営に関する定量的な成果を扱った論文には、以下のものがあります。
- 窪田・三矢・谷(2015a, b, 2016)「アメーバ経営は企業に成果をもたらすのか」『企業会計』
- 渡辺岳夫(2017)「会計情報と集約的効力感:アメーバ経営システムの効果に関する実証的研究」『原価計算研究』41(1): 13-25.
- 劉美玲(2018)「業績連動報酬がアメーバ経営に与える影響:中国企業のデータによる分析」『原価計算研究』42(2): 52-66.
- 廣本敏郎(1993)『米国管理会計論発達史』森山書店 … タイトルそのまま、アメリカにおける管理会計論発達の歴史を描いた研究書です。
- ジョンソン&キャプラン(1992)『レレバンスロスト:管理会計の盛衰』白桃書房 … これも管理会計の歴史的発達を描いた研究書ですが、当時の管理会計技法の発達の停滞と実務と研究の乖離を痛烈に批判している、独特な一冊です。
- 佐藤郁哉・山田真茂留(2004)『制度と文化:組織を動かす見えない力』日本経済新聞社 … 管理会計研究でもたびたび登場する組織文化論のレビュー、新制度派社会学等の解説としておススメです。
- Ahrens and Chapman (2004) CAR, Wouters and Wilderom (2008) AOS … 従来型のコントロールであるコアシブ・コントロールと、組織学習を支援するコントロールであるイネ―ブリング・コントロールの違いを理解するために有用な、代表的な2つの論文です。特に現場主導でいかに業績指標を活用してもらうのかという問題意識を持っている方は、イネ―ブリング・コントロールの議論がヒントになるかもしれません。
- Hall (2008) AOS … 包括的業績測定システムの効果に関する実証研究です。ここで包括的業績測定システムとは、財務的次元だけに限らず複数の次元の業績測定が可能で、各業績指標が戦略とつながりを持つものをいいます。
講義中には他にもいろんな文献を紹介しましたが、博士後期課程の学生に読んでおいてほしい特に重要な文献に限ってここでは紹介しました。