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Shirinashihama (2022) Asian Review of Accountingの解説

概要

Asian Review of Accountingという雑誌に、私の単著論文が掲載されました。 “Management accounting knowledge, limited managerial discretion and the use of management accounting: evidence from Japanese public hospitals” というタイトルの論文です(上記リンクからPDFをダウンロードできない方は、author accepted manuscriptになりますが、こちらのリンクからPDFを入手できます)。その内容をざっくり解説します。

この研究は、日本の公立病院経営者(病院長および事業管理者)を対象に「経営者の自由裁量」「経営者の管理会計知識」「病院における管理会計の実践」をアンケートで調査し、その結果を分析したものです。

「経営者の自由裁量」という概念になじみがない人も多いかと思いますが、経営活動の自由範囲(latitude of managerial action)のことを指す概念です。つまり、経営者が自由に経営活動を行える程度に関する概念を指します。本研究では、経営者が民間的な経営手法の導入についてどの程度の裁量を持っているか、経営感覚に富む人材の登用にどの程度裁量を持っているか、など合計で9つの領域についての裁量の程度を経営者に回答してもらい、その合計で経営者の裁量の大きさを測定しています。

この研究は、経営者の裁量が制限されることで、管理会計が十分に活用されなくなるのではないか、という素朴な疑問からスタートしています。公立病院では、民間病院と比較して管理会計の利用が低調であることが一橋大学・荒井耕教授の調査で分かっています。また、公立病院の経営者は、法律や首長・議会・事務方等の利害関係者によって裁量が大きく制限されていることもかねてから指摘されていました。そのため、経営者の裁量が制限されることによって、管理会計の利用も抑制される傾向があるのではないか?と考えたのです。

経営者の知識が管理会計の利用に影響を与えるというのは先行研究でも指摘されてきたことですが、先行研究の多くは経営者の学歴や学位などを経営者の会計知識の代理変数としてきました。この研究では、4つの管理会計技法(予算管理、原価計算、損益分岐点分析、投資経済性計算。どれも日本の病院経営の教科書でよく登場する)についての知識の程度を直接聞いているという点で、先行研究とは知識測定の手法が異なります。あたらしい測定手法を使って、管理会計知識の程度と管理会計実践度の関係を検証しようという点が、本研究のオリジナリティの一つです。

経営者の年齢や経営者としての経験年数、病院の規模などの要因の影響を統制しつつ、①経営者の自由裁量→管理会計実践、②経営者の管理会計知識→管理会計実践、の関係を重回帰分析を用いて検証しました。分析の結果、①経営者の自由裁量が大きいほど、公立病院の管理会計実践度が高い傾向があることがわかりました。経営者の裁量が大きい公立病院では、経営者が管理会計の導入を行う裁量を持っていたり、管理会計の利用を支援するスキルを持った事務方を雇用する権限を持っている、病院職員をトレーニングする研修を行う裁量があるといったことが考えられます。そのため、経営者の裁量が大きい病院で管理会計実践度が高いという傾向が確認されたのだと解釈できます。逆に、経営者の裁量が制限されている場合は上記のような管理会計を実践するための条件整備を経営者が行えないので、管理会計実践度が低い傾向がみられたと解釈できます。

また、②経営者が管理会計の各技法についてよく知っているほど、管理会計実践度も高い傾向があることも判明しました。この分析結果は先行研究の知見とも合致するものです。経営者が管理会計の技法を知っていれば、その活用の仕方もわかるわけで、管理会計技法の活用が積極的に進むのだと解釈できます。

この研究はアンケート調査に基づく一時点のデータを分析しただけなので、「経営者の自由裁量」「経営者の管理会計知識」「病院における管理会計の実践」の間に因果関係が存在するとまでは言えません。データで示されたのは、互いの相関関係だけです。仮説と逆の因果として、病院で管理会計を実践していたので経営者も管理会計について詳しくなったとか、管理会計の実践によって病院の財務業績が改善し、その結果として経営者に大きな裁量が認められた、といったものが考えられます。後述するインタビューにもとづく私の感触では、そのような逆の因果が当てはまるケースは多くなさそうではあります。しかし、因果関係の方向性に関する議論に決着をつけるためは、厳密な因果推論の手法の採用とそれに適したデータの入手が必要でしょう。

実務的なインプリケーションは次のようになります。すなわち、日本の公立病院における管理会計の利用を進めるのであれば、首長が管理会計について詳しい経営者を雇い、その経営者の裁量を大きくすることが効果的な可能性がある、ということです。ただし、すでに指摘したように本研究では因果関係について確かなことが言えないので、あくまでも「可能性」を示唆するだけにとどまります(実務的なインプリケーションとしては弱い)。

関連する研究

本研究は、私がここ数年取り組んできた公立病院経営者の裁量に関する研究成果の一つです。関連する研究をいくつかここで紹介します。

経営者の経営上の裁量に関して、経営上の裁量の大小に影響を与える要因をアンケートデータの定量的な分析から明らかにしたのが、尻無濱(2020)です。この研究からは、経営者の総合的な裁量の大きさにマイナスの影響を与えている傾向が示されたのは首長、首長部局、院内事務方といった利害関係者の存在でした。先行研究で指摘されていた地方公営企業法の適用の程度(全部適用か一部適用か)については、経営者の総合的な裁量の大きさと関連があるという仮説を支持する証拠は得られませんでした。

尻無濱(2021)は、同じアンケートの自由記述欄を分析し、経営者の人事・労務に関する裁量が制限されているケースが多いことを発見しました。また、首長、本庁事務方、院内事務方が経営者の裁量を制限しているという意見が多く見られました。これは尻無濱(2020)とも一貫する調査結果です。

尻無濱(2022)では、45の公立病院経営者へのインタビューにもとづき、様々な利害関係者がどのような状況やコンテキストの下で公立病院経営者の裁量を制限しているのかを明らかにしました。経営者に対するインタビューを分析した結果、公立病院経営者の裁量を制限している重要な利害関係者は、首長、議会、事務職員であることが分かりました。ここまでは尻無濱(2020, 2021)ともある程度整合する結果ですが、この研究ではインタビュー内容を分析することで一歩踏み込んだ分析を行っています。首長については、①彼らの病院経営に対する知識が欠如していたり病院経営に対する関心がなかったりするために経営者を支援しない、②首長が選挙のことを考慮して経営者の意向に反対する、という場合に経営者は裁量を制限されていると感じていました。議員については、病院経営に関する知識不足に起因する不合理な要望や提言を彼らが行う場合に、経営者は裁量を制限されていると感じる傾向がありました。事務職員については、①人事異動の慣行が招く事務職員の知識不足、②彼ら自身の士気の低さが経営者の裁量を制限する事例が散見されました。この研究では、質的データ分析(qualitative data analysis:QDA)という手法を用いたのも、私としてはチャレンジした点でした。

なお、一連の研究は科研費(若手研究)「マネジメント・コントロールシステムの活用に経営上層部の自由裁量が与える影響の研究 」の支援を受けて行ったものです。協力してくださった公立病院経営者の方々には感謝しています。また、この研究資金援助がなければ、アンケート調査費用とインタビュー旅費を支払うことができなかったので、科研費の支給にも深く感謝しています。

また、科研費(基盤B)「知の活用と探索に対する管理会計の役割の研究 」(代表者:三矢裕教授)との関連で行った研究会でもたびたび公立病院経営者の自由裁量に関する報告をし、メンバーの先生方から貴重なアドバイスをいただきました。ありがとうございました。

 

 

TJARワークショップ、京都管理会計研究会で発表します

2021年3月9日(火)、TJARワークショップで一人でやっている研究の内容を報告します。論題は “Hybridization, Managerial Discretion and Management Accounting: A Multiple Case-study of Public Hospitals” で、タイトルは英語ですが発表は日本語でやります。いずれ英語で書きなおす予定の未発表論文ですが、まずは日本語でいろいろコメントもらおうという趣旨です。詳細はこちらから。

同じ週の3月13日(土)、私の誕生日に京都管理会計研究会で発表します。こちらは横浜市立大学の黒木先生との共同研究で、報告は私がやります。論題は「管理会計における診断学の必要性(仮)」で、大風呂敷を広げる系の研究です。詳細はこちらから。

どちらもオンラインです。参加される研究者の方、コメントお待ちしてます。

 

神奈川大学に着任しました

世間は新型コロナウイルス感染症で大変なときですが、勤め先が変わったのでご報告します。

3月末で山形大学を退職し、この4月から神奈川大学経営学部に着任しました。山形には6年半いましたが、家族の事情もあり関東の大学に移ることにしました。山形大学の近くにダイニング・ヘリアンという大好きなレストランがあるのですが、そこに行けなくなるのが心残りです…。

山形には、今年度は夏と冬に集中講義をしに行きます。ゼミのOB・OG会も山形で開く予定ですし、リサーチサイトもあるので、これからもたびたび山形に行くかと思います。山形の皆さん、駅や大学構内で見かけたら声をかけてください!

新たな勤務先の神奈川大学では、会計学原理や簿記原理、制度会計論などいわゆる簿記・財務会計科目を教えることになります。この1年は、新しい大学での生活に慣れることを目標に、研究はほどほど、教育中心で頑張っていこうと思います。

神奈川大学の経営学部は平塚市にあります。湘南ひらつかキャンパスというところで、自然に囲まれた広いキャンパスです。1年後にはみなとみらいの新キャンパスに移転するので、湘南に遊びに来たい方は今年度中に来てください。笑

 

Shirinashihama (2019) NVSQの解説

非営利組織の経営組織化(managerialization)に関する私の単著論文が、非営利組織研究のトップジャーナルであるNonprofit and Voluntary Sector Quarterlyに掲載されました。

Shirinashihama, Y (2019) “The Positive and Negative Consequences of “Managerialization”: Evidence From Japanese Nonprofit Elderly Care Service Providers,” Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly, 48(2): 309-333.

この論文は非営利組織研究で近年ホットなトピックになっている非営利組織のビジネスライク化、その中でも経営組織化と呼ばれる現象をテーマに、タイトな予算管理が非営利組織でどのように活用されるのかを研究したものです。

非営利組織の経営組織化とは、非営利組織が営利企業で活用されているような経営管理に関する知識・手法を取り入れ、経営管理について知識がある人材を活用するようになることを指します。経営組織化することで、非営利組織は資源を効率的に使用し、財務業績を改善できるといわれています。さらには、組織ミッションも効率的に達成できるようになるとされています。しかし、経営組織化が行き過ぎると、財務面での成功を過度に重視してしまい、本来の社会的使命を見失い、自身のミッションと関連するはずのサービスの提供を「儲からないから」という理由で止めてしまうことがあるとも指摘されています。要するに、非営利組織の経営組織化は財務面の改善というポジティブな面と、ミッションと関連するサービス提供を止めてしまうというネガティブな面があるといわれているわけです。

先行研究では、ポジティブな面だけに注目する、もしくはネガティブな面だけに注目するというやり方で、研究が蓄積されてきました。本来は経営組織化に2つの面があるはずなのに、両方を同時に考慮して比較検討した研究は存在しない。しかも、ネガティブな面を強調する研究のほとんどは事例研究で、定量的な研究結果は示されてきませんでした。私はこの点に注目し、非営利組織の経営組織化がもたらすポジティブな効果・ネガティブな効果を定量的なデータを用いて同時に検討することにしました。

この研究では、私が管理会計を専門にしていることもあり、経営組織化をタイトな予算管理の実行と経営者の経営経験の長さ/経営関係の教育を受けた年数の長さという変数間の交互作用項で捉えました。タイトな予算管理を実行していてベテラン経営者を雇っている/正式な経営管理教育を受けた経営者を雇っている場合に、経営組織化が進んでいると考えたわけです。この経営組織化が①財務業績を高めるのか(ポジティブな面)、②儲からないミッション関連のサービス提供への努力を減らしてしまうのか(ネガティブな面)、を検証しました。非営利組織がタイトな予算管理を実行していてベテラン経営者/正式な教育を受けた経営者がいれば、うまく予算管理を使って高い財務業績を達成していると予想できます。その一方で、経営者は厳しい予算管理を通じて儲からない事業・サービスを特定し、どんどん縮小・廃止するというのもありうる話です。どちらのストーリーが正しいのか(あるいは両方が同時に起こっているのか)を検証するために、日本で介護事業を営む社会福祉法人という非営利組織へのアンケート調査の結果と財務業績などを組み合わせたデータを用意しました。

データ分析の結果、①社会福祉法人の経営組織化が進んでいるほど財務業績が高まることは支持されました。経営組織化のポジティブな面は支持されたわけです。その一方で、②社会福祉法人は経営組織化が進むことで、儲からないサービスを提供するための努力を減らしている、という証拠は得られませんでした。ネガティブな面に関する先行研究の指摘は、少なくとも今回の調査結果からは支持されなかったのでした。

この研究は、非営利組織の経営組織化が引き起こすと予想されるポジティブな効果・ネガティブな効果を初めて同時に定量的に検証することで、非営利組織の経営組織化研究を進展させることができたといえます。また、タイトな予算管理が非営利組織でも効果的に活用されていることを明らかにしたという点で、管理会計研究にも貢献できたと思います。これからも管理会計研究×非営利組織研究という領域で、海外のトップジャーナルにどんどん研究を発表し、非営利組織研究と管理会計研究の両方を盛り上げていきたいと思っています。

 

山形県内市町村の行政評価に関する教材選び(あるいは自治体へのお願い)

公会計の講義で、行政評価についてもそれなりの時間を割いて教えている。行政評価は公会計の財務会計・管理会計を両面から支える重要な手法である。

行政評価はアカウンタビリティを果たす機能を持っており、それは財務会計的な側面を持つということである。決算や財務書類には詳しく書かれていない情報が、行政評価の報告書には書かれている。例えば事業ごとの予算配分額と実績、今後の計画などである。これらを統一的なフォーマットで知ることができる資料は、市民にとっては行政評価ぐらいだと思う。自分が収めた税金がどのような事業に使われており、そこでどのような成果が出ているか、その事業は今後継続していくのか、それとも廃止するのか…こういった情報は、行政が公開している行政評価の報告書、特に事務事業評価を見ることで得ることができる。

また、事業実施の権限と責任を担当部局に割当てたうえでPDCAサイクルをまわすという観点からは、行政評価は管理会計的な面を持つ。行政評価の管理会計的な側面は、松尾(2009)『自治体の業績管理システム』をはじめ、様々な論文・書籍で紹介されている。

まあこういったことを、実例を取り上げつつ講義で教えている。教材には以前から山形市の事務事業評価報告書を活用してきたのだが、ここ2~3年、事務事業より大きなくくりの施策評価しか公表されなくなってしまい、得られる情報がめっきり少なくなってしまった。山形市の隣の天童市については、講義ではその決算カードや財務書類よく題材にしていて、多額のふるさと納税が生んでいると思われる効果を楽しく話している。天童市の行政評価報告書を教材に使いたいところだが、天童市も事務事業評価の情報開示には消極的である。PDFを見るとわかるように、少なくとも公開しているPDFの中には事務事業を評価した結果、各事業の実績がどうだったか、それを示す指標が見当たらないのである。

それで仕方なく、ここ数年の講義ではかなり昔の山形市の事務事業評価報告書を教材に使ってきたのだが、最近、山形県内で新たに事務事業評価の結果を詳細に公表している自治体を発見した。それは、新庄市である。PDCAサイクルにしたがって詳細な情報が事務事業ごとに報告されており、これだと学生も事務事業評価の内容を理解しやすい。

事務事業評価を公表してもらえると、学生にとって身近な教材になる。山形県内の市町村で行政評価を担当する部署の方には、ぜひ事務事業評価まで詳しいレベルで開示していただきたい。

 

管理会計特論@筑波大学大学院ビジネス科学研究科 で紹介した文献

2019年の2月末~3月初旬にかけて、筑波大学の大学院、ビジネス科学研究科で博士後期課程の学生向けに管理会計特論を開講しました(シラバスはこちら)。講義中に紹介した文献の一部を、ブログでも紹介しておこうと思います。なお、この講義のテキストは

Harris ed. 2017. The Routledge Companion to Performance Management and Control, Routledge.

でした。最近出版された、業績管理、マネジメント・コントロール(Management Control: MC)に関する論文集ですね。全28章の中から、MCの理論的枠組みと脱予算経営の事例を紹介した第2章、京セラのアメーバ経営を扱った第3章、規制と産業ベンチマークが業績管理システムに与える影響を事例を通じて検討した第6章、行動科学的諸問題に焦点を当てた業績管理研究のレビュー論文である第12章、そして非営利組織MC研究の最近の展開と将来の研究課題を論じた第22章を講義では取り上げました。

講義中には他にもいろんな文献を紹介しましたが、博士後期課程の学生に読んでおいてほしい特に重要な文献に限ってここでは紹介しました。

管理会計研究会@熊本学園大学(2019年1月28日)

管理会計研究会を、熊本学園大学で開催します。熊本学園大学の吉川晃史先生、小笠原亨先生、それから尻無濱の3人が主催する研究会です。

2019年1月28日(月)15時~17時30分まで、私の研究報告と、慶應義塾大学の木村太一先生・村上裕太郎先生の共同研究、合計2本の報告があります。私は自治体病院のマネジメント・コントロール・システムの実態を自治体病院経営者に対するインタビューに基づいて報告します。木村先生たちは研究方法的にはアナリティカルだそうです。研究会後は懇親会も行います。

興味・関心のある会計研究者(教員・大学院生)は、ぜひお越しください。連絡は私までよろしくお願いします。

ロジスティック回帰:標準誤差が異常に大きい場合の対処

手元のデータでRのglm関数を使ってロジスティック回帰分析をしていたところ、以下のようなエラーが出た。

Warning message:
glm.fit: 数値的に 0 か 1 である確率が生じました

summary関数で結果を表示することはできるのだが、切片やいくつかの変数の標準誤差が異常に大きい。数千もの値になっている。これは何か問題があると思って調べたところ、完全分離(complete separation)が起きている場合にこのような計算結果が表示されることが分かった。完全分離とは、「独立変数と従属変数のクロス表において度数がゼロのセルが存在する」(林他 2017, p.225)ことを指す。このような場合、「対数オッズがプラスまたはマイナス無限大になってしまい、反復計算の過程で最終的な解に収束していかない」(林他 2017, p.225)ことが知られている。林他(2017)によると、偏回帰係数や標準誤差が異常に大きな値になっている場合に完全分離が生じている可能性が高いという。実際、手元のデータでクロス集計をしてみたところ、完全分離が生じていることを確認できた。どうも、小標本でめったに起きない事象を扱っている場合に、このような完全分離が起きやすくなるようだ。

このような場合の対処方法として、精確ロジスティック回帰(exact logistic regression)とFirthの方法によるバイアスを修正したロジスティック回帰(Firth’s bias-reduced logistic regression; 以下、Firthの方法)が提案されている。それぞれの詳しい内容については、以下の記事が参考になる。

Rであれば、精確ロジスティック回帰はelrmパッケージのelrm関数で実行でき、Firthの方法はlogistfパッケージのlogistf関数を使えば実行できる。精確ロジスティック回帰は下準備が面倒なので、今回はlogistf関数を使って分析を実行することにした。logistf関数を使ったFirthの方法は、help関数で調べてみると簡単に実行できることがわかる。help関数で使い方を調べた時に表示される内容と同じものが書かれているwebサイトを以下に示す。

logistfパッケージは、Heinz氏が作成したものである。この方は、Firthの方法を適用し完全分離の問題を解決する方法を提案したHeinze and Schemper (2001, 2002)の著者の一人である。アヤシイ人が作ったパッケージではないし、安心して使っていいだろう。

会計学研究での利用についてだが、Firthの方法を使った論文としては、Wen et al. (2017) がある。中国の学生が公認会計士と企業内の会計担当者のどちらを選ぶかというキャリア選択をする際に、どのような要因がその選択に影響を与えるかを定量的に分析した論文である。この論文では、いわゆるロバストネス・チェックのような形でFirthの方法で分析した結果が示されている(p. 136)。彼らは偏回帰係数、標準誤差、χ二乗値、p値を示しており、モデル全体の有意性の検定として尤度比検定の結果を掲載している。多重共線性関係の指標としては、トレランスおよびVIFを示している。論文でFirthの方法を活用する場合には、彼らの報告の仕方を参考にするとよいだろう。

実際に手元のデータを使ってFirthの方法を実行してみたところ、問題は解決された。統計学に詳しい人にとって、このような対処法は当たり前に知っていることなのだろうが、私のように統計学に明るくない人が同じ問題に引っかかることもあるだろう。なのでブログに書いて共有しておく。

小ネタ:Bluetoothペアリングにミスった時のリカバリー方法

研究ネタではないのだが、また同じ状況にはまりそうな気がするので、備忘録として書いておく。

Bluetoothのペアリングの接続に失敗すると、PINコードがPC側に表示されなくなる場合がある。その時は、接続したい機器(例えばキーボード)が要求するのと同じ桁数の適当な数字をPC側のPINコード入力欄に打ち込む。その後すぐに、機器側で同じ番号を入力すると、ペアリングが成功する。

例:キーボード(PINコード4桁)の場合

  1. PC側のBluetooth追加から接続したいキーボードを選択
  2. PINコードを要求されるので、4桁の適当な数字を入力し、「接続」をクリック
  3. すぐにキーボード側で全く同じ数字を入力してEnterキーを押す
  4. 接続完了!

機器が要求するPINコードが6桁なら、6桁の数字を入力すればいい。なぜこれでうまくいくかはよくわからないが、PINコードが表示されなくなってもこれで解決できる。

 

非営利組織研究の海外学術雑誌リスト

非営利組織研究の学術雑誌のリストがHarvard Kennedy School、University of Michigan、それからWikipediaのNonprofit Studiesの記事に掲載されている。

Harvard Kennedy Schoolのリスト(individual journals)

University of Michiganのリスト

WikipediaのNonprofit Studiesの記事

これら3つのリストを見ると、やはり非営利組織研究ではNonprofit Voluntary Sector Quarterly(NVSQ)、Nonprofit  Management & Leadership(NML)、そしてVOLUNTASが重要なジャーナルとして位置づけられているようだ。

そのほかの重要なジャーナルとしては、International Journal of Nonprofit and Voluntary Sector Marketing、Journal of Nonprofit & Public Sector Marketingなどが非営利組織マーケティングで重要らしい。

Public Administration Review(PAR)なんかの公共経営系の雑誌はどういう扱いなのだろうか。ぼちぼち引用されている気がするが。