学部生・修士課程の大学院生向けに、管理会計をはじめとした会計学のおすすめテキストを紹介します(日本語のもののみ)。管理会計研究に活用できる書籍も紹介します。
管理会計・原価計算のテキスト・専門書
- ジャンバルボ(2015)『新版:管理会計のエッセンス』同文館出版
- アメリカのビジネススクールで使用されている管理会計のテキスト。管理会計を学んだことのない人にもわかりやすいようで、学生たちにも人気がある。
- 高橋賢(2015)『テキスト原価会計:第2版』中央経済社
- 原価計算をはじめて学ぶ人向けに作られたテキスト。説明は簡潔でわかりやすい。尻無濱の講義、「原価計算入門」「原価計算の基礎」のテキスト
- 廣本敏郎・挽文子(2015)『原価計算論:第3版』中央経済社
- 原価計算を徹底的に学びたい人にはうってつけのテキスト。レベル的には高橋本よりかなり難しいが、そのぶん様々なトピックが扱われているし、説明が充実している
- 廣本敏郎ほか(2012)『体系現代会計学 第12巻 日本企業の管理会計システム』中央経済社
- この本の第8章に、管理会計研究でよく利用される研究方法が紹介されている。具体的には、歴史的方法(中でも制度学派)、定性的方法、統計的方法、数理的方法である
- この章を読んだだけで研究方法についての十分な知識がつくとは言えない。各章の参考文献に挙げられている書籍・論文にさかのぼって、研究方法を勉強する必要があるだろう
- 加登豊ほか(2010)『管理会計研究のフロンティア』中央経済社
- 管理会計研究の(当時の)フロンティアについて、先行研究を丁寧にまとめたレビュー論文が多数収録されている
- テーマ選びや、テーマに関連する書籍・論文を探す時に役に立つだろう
公会計のテキスト
- 有限監査法人トーマツパブリックセンターインダストリーグループ(2015)『一番やさしい公会計の本:第1次改定版』学陽書房
- 監査法人トーマツの公認会計士たちによる公会計の入門テキスト。伝統的な公会計と新地方公会計・統一基準の両方が扱われている。公会計の概要をつかむのに便利
- 総務省webサイト「地方公会計の整備」
- 公会計、特に新地方公会計や統一基準といった近年の地方公会計改革に関する資料は、総務省webサイトに大量に掲載されている。ここに掲載されている報告書や会計基準等を要約している公会計のテキストは多い
- 公会計のテキスト読んで、さらに詳しく公会計のことを知りたければ、一次情報であるこのサイトを参照すること
- 松尾貴巳(2009)『自治体の業績管理システム』中央経済社
- 自治体管理会計研究の第一人者である神戸大学の松尾先生が執筆された専門学術書。初学者が読みこなすのは大変だが、ゼミなどで教員がサポートしながら読むのには適していると思う
簿記のテキスト
- 『検定簿記講義』シリーズ
- 大学教員の中でも日商簿記検定に詳しいとされる執筆陣が書いたロングセラー。とりわけ2級・3級のテキストは分かりやすく、例題・練習問題もそれなりに充実しており、何より安いのでおススメ。尻無濱が担当する簿記関連の講義では教科書/参考書として指定することが多い
- 滝澤ななみ『スッキリわかる日商簿記』シリーズ
- 資格の学校TACに所属している(とされる)滝澤ななみ氏が書いた、評価の高いテキスト。図表やキャラクターが登場した方が分かりやすいという人にはこちらをおススメする。尻無濱が学生だった頃にお世話になったテキストでもある
- 滝澤ななみ『みんなが欲しかった!簿記の教科書』シリーズ
- 滝澤ななみ氏が執筆した比較的新しい教科書。『スッキリわかる』シリーズより説明が丁寧なので、理解を深めたい方にはこちらがおススメ。
財務諸表分析のテキスト
- 桜井久勝(2020)『財務諸表分析:第8版』中央経済社
- 財務諸表分析についての定番テキスト。前半は財務諸表の構造についての復習で、後半(第2部以降)に財務諸表分析の方法が書かれている
- 村上裕太郎(2016)『なぜ、会計嫌いのあいつが会社の数字に強くなった?図だけでわかる財務3表 』東洋経済新報社
- 慶應義塾大学ビジネススクールの村上先生が執筆されたテキスト。対話形式で読みやすく、身近な企業の例をとりあげ図を使って解説しているのでとてもわかりやすい。実践的に財務諸表分析を行うことを意識している。細かいことは気にするな、というスタンスのテキスト。桜井本が難しい・読むのがツライ、という人にはこちらがオススメ
- 山根節ほか(2019) 『ビジネス・アカウンティング:第4版』中央経済社
- 村上先生の書籍を読んだ後に、非営利縮尺財務諸表を使ってより深く企業の財務諸表を分析するスキルを磨きたい場合には、この本を読むのがおすすめ。村上先生も著者に入っているし、慶応義塾大学ビジネススクールの太田康広先生も著者に入っている
- 矢部謙介(2020)『粉飾&黒字倒産を読む:「あぶない決算書」を見抜く技術』日本実業出版社
- タイトルの通り、企業の粉飾決算や黒字倒産のからくりを、決算書を通じて見抜く技術を説明している。事例が豊富であり、あぶない決算書を見抜く技術も具体的で、読了後には身につけた技術を実際の決算書で試してみたくなるはず。説明も明快で分かりやすい
- 大津広一(2021)『ビジネススクールで身につける会計×戦略思考』日本経済新聞出版
- 日経ビジネス人文庫から出ている『ビジネススクールで身につける会計力と戦略思考』の改訂版。企業の戦略が財務諸表に反映されていることを丁寧に説明している。特に素晴らしいのが第3章「企業名のみから決算書を読み解く仮説・検証のプロセス」であり、ここだけでも読むのをお勧めする
研究方法論一般(文書作成法含む)
- 戸田山和久(2012)『新版 論文の教室:レポートから卒論まで』NHKブックス
- 対話形式で、レポートや卒論の書き方を実践的に解説している。論文をタネから育てるというこの書籍のコンセプトは、実際の論文執筆でも大きな効果を発揮する。お勧めの一冊
- アドラー・ドーレン(1997)『本を読む本』講談社学術文庫
- 難解な本、長大な書籍を読む際の技術を実践的に解説。この本に書いてある通りに本や論文を読まなければならないというわけではないが、本や論文を読むときのテクニックとして参考になる。私自身も、一部は実践しています(例:目次を読み込んで全体の構造を頭に入れてから本文に入る、など)
- 久米郁男(2013)『原因を推論する:政治分析方法論のすゝめ』有斐閣
- 因果関係の推論について、定量的な方法、定性的な方法を事例に基づいてわかりやすく解説。最近の方法論に関する論争にも触れられていて、読み物としても面白い。個別の研究方法を学ぶ前に読んでおくとよいだろう。ただし、この本を読んだからといってすぐに研究ができるようになるわけではない
- 中室牧子・津川友介(2017)『「原因と結果」の経済学:データから真実を見抜く思考法』ダイヤモンド社
- 経済学において因果推論を行う方法を、具体的な研究例を挙げながらわかりやすく解説している。数式を使わずに様々な手法を解説しているため、数式が苦手な人でもするすると読めてしまう
- 大谷信介ほか(2005)『社会調査へのアプローチ 第2版:論理と方法』ミネルヴァ書房
- 社会調査に関する方法を、広く浅く(それでいて実践的に)紹介。いろいろな研究方法を知っておきたい人にはオススメ。新版も出ているらしいが、そちらの評判はあまりよろしくないので、旧版をお勧めしておく
質的研究方法
- 佐藤郁哉(2008)『質的データ分析法:原理・方法・実践』新曜社
- 質的研究法については日本の第一人者である佐藤郁哉先生によるテキスト。インタビューや参与観察で得たデータをどのように分析して論文化すればいいのか、そのアイデアと方法を学ぶことができる。読みやすく、学部生が読むのにちょうどよいレベルだと感じる。データ分析のソフトウェアとしてはMaxQDAを推している。姉妹編として『QDAソフトを活用する実践的データ分析入門』があるが、重複する内容が多いのでどちらか一方を買えばよいと思う
- ウヴェ・フリック(2011)『新版 質的研究法入門:<人間の科学>のための方法論』春秋社
- 質的研究法に関する様々な論点を網羅的にカバーした書籍。入門、と銘打っており確かに読みやすいが、いきなりこれに挑戦すると学部生は挫折するのでは?と思うほどに分厚い。学部生のうちは興味がある部分について辞書的に活用し、大学院生になったら通読する、というのがいいだろう
社会統計学・心理統計学・計量経済学
- ボーンシュテット・ノーキ(1992)『社会統計学:社会調査のためのデータ分析入門』ハーベスト社
- 古い本だが、難しくない数式と丁寧な説明で基本的な統計分析の方法を教えてくれている。演習問題が多い。英語版だともっと新しい版もある
- 足立浩平(2006)『多変量データ解析法:心理・教育・社会系のための入門』ナカニシヤ出版
- 管理会計研究でも頻繁に登場する多変量解析を、四則演算だけでわかりやすく解説。これを読んでも分析ができるようになるわけではないが、論文の分析が何をやっているかはわかるようになる
- 山本勲(2015)『実証分析のための計量経済学:正しい手法と結果の読み方』中央経済社
- 難解な計量経済学の手法を明快かつわかりやすく解説している。計量経済学の手法を使った論文を読む際には、この本を読んでおくと理解が深まるだろう。ただし、足立本と同じく、この本を読んでも分析ができるようになるわけではない
- 星野匡郎・田中久稔(2016)『Rによる実証分析:回帰分析から因果分析へ』オーム社
- 回帰分析を中心テーマに据えて、統計解析用のプログラミング言語Rを使いながら回帰分析の使い方を学ぶことができる。簡単な書籍とは言わないが、実証分析を行う力がつく一冊である
- 南風原朝和(2002)『心理統計学の基礎:統合的理解のために』有斐閣アルマ
- 心理統計学を数理的な側面も含めてしっかりと解説している。このページで紹介する本の中では難し目の本だが、読み切ると実力はつく。心理統計学の数理的な側面もしっかりと理解したい人にはオススメ
- 関連書に『心理統計学ワークブック:理解の確認と深化のために』、『続・心理統計学の基礎』がある
- 山田剛史・杉澤武俊・村井潤一郎(2008)『Rによるやさしい統計学』オーム社
- 心理統計学を、Rという統計解析用のプログラミング言語で実際に分析しながら学ぼうという趣旨の本。実際に手を動かしながら勉強でき、解説も丁寧なので、卒論をやるのに十分な実力はこの本だけでつく
- ただし、管理会計研究では実験データを使うことが稀なので分散分析はほとんど使わない。その部分は読み飛ばしてしまって構わないだろう
- 山田剛史・村井潤一郎・杉澤武俊(2015)『Rによる心理データ解析』ナカニシヤ出版
- 『Rによるやさしい統計学』の続編というべき書籍。前著では十分解説されなかった高度な手法についても説明が充実し、卒論はおろか修論レベルまでもカバーした実践的なものに仕上がっている