Shirinashihama (2019) NVSQの解説

非営利組織の経営組織化(managerialization)に関する私の単著論文が、非営利組織研究のトップジャーナルであるNonprofit and Voluntary Sector Quarterlyに掲載されました。

Shirinashihama, Y (2019) “The Positive and Negative Consequences of “Managerialization”: Evidence From Japanese Nonprofit Elderly Care Service Providers,” Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly, 48(2): 309-333.

この論文は非営利組織研究で近年ホットなトピックになっている非営利組織のビジネスライク化、その中でも経営組織化と呼ばれる現象をテーマに、タイトな予算管理が非営利組織でどのように活用されるのかを研究したものです。

非営利組織の経営組織化とは、非営利組織が営利企業で活用されているような経営管理に関する知識・手法を取り入れ、経営管理について知識がある人材を活用するようになることを指します。経営組織化することで、非営利組織は資源を効率的に使用し、財務業績を改善できるといわれています。さらには、組織ミッションも効率的に達成できるようになるとされています。しかし、経営組織化が行き過ぎると、財務面での成功を過度に重視してしまい、本来の社会的使命を見失い、自身のミッションと関連するはずのサービスの提供を「儲からないから」という理由で止めてしまうことがあるとも指摘されています。要するに、非営利組織の経営組織化は財務面の改善というポジティブな面と、ミッションと関連するサービス提供を止めてしまうというネガティブな面があるといわれているわけです。

先行研究では、ポジティブな面だけに注目する、もしくはネガティブな面だけに注目するというやり方で、研究が蓄積されてきました。本来は経営組織化に2つの面があるはずなのに、両方を同時に考慮して比較検討した研究は存在しない。しかも、ネガティブな面を強調する研究のほとんどは事例研究で、定量的な研究結果は示されてきませんでした。私はこの点に注目し、非営利組織の経営組織化がもたらすポジティブな効果・ネガティブな効果を定量的なデータを用いて同時に検討することにしました。

この研究では、私が管理会計を専門にしていることもあり、経営組織化をタイトな予算管理の実行と経営者の経営経験の長さ/経営関係の教育を受けた年数の長さという変数間の交互作用項で捉えました。タイトな予算管理を実行していてベテラン経営者を雇っている/正式な経営管理教育を受けた経営者を雇っている場合に、経営組織化が進んでいると考えたわけです。この経営組織化が①財務業績を高めるのか(ポジティブな面)、②儲からないミッション関連のサービス提供への努力を減らしてしまうのか(ネガティブな面)、を検証しました。非営利組織がタイトな予算管理を実行していてベテラン経営者/正式な教育を受けた経営者がいれば、うまく予算管理を使って高い財務業績を達成していると予想できます。その一方で、経営者は厳しい予算管理を通じて儲からない事業・サービスを特定し、どんどん縮小・廃止するというのもありうる話です。どちらのストーリーが正しいのか(あるいは両方が同時に起こっているのか)を検証するために、日本で介護事業を営む社会福祉法人という非営利組織へのアンケート調査の結果と財務業績などを組み合わせたデータを用意しました。

データ分析の結果、①社会福祉法人の経営組織化が進んでいるほど財務業績が高まることは支持されました。経営組織化のポジティブな面は支持されたわけです。その一方で、②社会福祉法人は経営組織化が進むことで、儲からないサービスを提供するための努力を減らしている、という証拠は得られませんでした。ネガティブな面に関する先行研究の指摘は、少なくとも今回の調査結果からは支持されなかったのでした。

この研究は、非営利組織の経営組織化が引き起こすと予想されるポジティブな効果・ネガティブな効果を初めて同時に定量的に検証することで、非営利組織の経営組織化研究を進展させることができたといえます。また、タイトな予算管理が非営利組織でも効果的に活用されていることを明らかにしたという点で、管理会計研究にも貢献できたと思います。これからも管理会計研究×非営利組織研究という領域で、海外のトップジャーナルにどんどん研究を発表し、非営利組織研究と管理会計研究の両方を盛り上げていきたいと思っています。

 

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